…考察…映画『四つの終止符』を観る会・代表
注:「映画『四つの終止符』を観る会」は 平成11年10月3日現在にて解散

 作家、西村京太郎といえば、トラベルミステリィの第一人者である。小説「四つの終止符」は、昭和39年、氏が書き下ろした初めての本格推理長編。ろう者とそれを取り巻く社会のあり方をテーマに展開している。
 氏とろう者との関わりは深く、平成2年には、全日本ろうあ連盟発行書籍、季刊MIMI(みみ)に、『海の沈黙』というタイトルで、やはりろう者を主軸にした小説の連載を開始している。これは後に「十津川警部、沈黙の壁に挑む」と改題、一冊の本になった。
 余談だが、「四つの終止符」は『この声なき叫び』というタイトルで一度映画化され、主軸のろう青年を、あの田村正和、ろう学校長を名優、笠智衆が演じた。
 一方、映画『四つの終止符』を撮った大原秋年氏は、あえて有名俳優は起用せず、小説の時代背景30年代を描くためモノクロにこだわり、意識的に差別用語を使っている。東京でさえ、手話通訳ができる者は10人程度…という時代。奇しくも、小説が発表された翌年、二人のろう者が傷害致死で逮捕起訴される事件(蛇の目寿司事件)が起こった。
 『ろう者はきこえる人間に近づく努力をしているのに、きこえる側は、ろう者に近づこうとしているか』
 事件の裁判記録を読んだ大原氏は、映画制作を決意する。
 また、原作者西村氏も、小説の中でこんなセリフを書いている。
 『目を閉じれば、盲人の苦悩がわかる。しかし、耳をふさいだだけでは、聾人の苦悩を理解することはできない』と。
 この二人の想いが合って制作された映画『四つの終止符』は、重く辛くきびしい。
 具体的に、どんな映画なのか…は、実際に会場に足を運んで観てもらうのが一番。ひとつ確かなのは、『きこえない』とはどういうことか、観客に疑似体験させ、ろう者の苦悩を訴えてくることだ。「無音の音がきこえますか」と。
 暗幕さえ有れば、いつでも、どこでも、どんな規模のところでも、映写機を携えて行きます、と大原氏は言う。どんな場所であっても、どんな状況であっても、講演は氏自身が、20年以上にわたるろう者との交流のなかでつちかった手話で、熱く、語られる…。
 一度観た方はもう一度、観たことがない方は是非、ご自分の目で観て、感じて、知ってほしい。静かな…しかし、強い、確かな「無音の音」を…。
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